(症状と治療のための具体的な説明)

  • 更新日 2021.11.11
  • 1.はじめに

    呑気症(どんきしょう)は、空気嚥下症(くうきえんげしょう)とも言われますが、無意識のうちに空気を飲み込むことによって、胃の不快感や、げっぷ、胃の痛み、上腹部膨満感、腹鳴、おなら等の症状が起こってくるものです。

    なお、空気を飲み込むことが主要な原因の場合は「飲み込み呑気症」と言われることもあります。

    また、歯を喰いしばったりすることが主要な原因の場合は「噛みしめ呑気症候群」と言われることもあります。

    ただ、呑気症と言われている症状の中には普通神経症や過敏性腸症候群といった神経症の「とらわれ」が原因になっている場合も多いと思います。

    普通神経症の症状である胃腸神経症や過敏性腸症候群、対人恐怖症の症状に含まれる、おなら恐怖症や腹鳴恐怖症は呑気症と非常によく似た症状が起こります。

    しかし、これらの症状の場合は、空気を飲み込んだり、噛みしめのために起こるものではなく、神経症の「とらわれ」から起こってくるものなのです。

    ですから、呑気症と言われている症状でも、中には神経症から来ている場合も多いと思いますので、この見極めを、きちんとしていくことが大切になると思います。

    なお、この見極めをする際に、人前での緊張や不安など、他の神経症の症状の傾向があるかどうかが一つのポイントになると思います。

    また、心配性や自己内省性の強さ、負けず嫌いといった神経質性格の特徴を持っているかどうかも大切なポイントになります。

  • 2.呑気症とは

    この症状は先ほども書きましたが、空気嚥下症と言われることも多いものです。
    つまり、空気嚥下症と言われるとおり、何らかの原因で空気を沢山飲み込んでしまい、これによって胃の不快感や胸焼け、げっぷ、おならなどが起こってくる症状だと言われています。

    大雑把に言うと、おならやゲップなどの胃の不調が頻繁に起こり困ってしまう状態だと言って良いと思います。

    日本人の8人に1人が悩んでいるという情報もある位で、思っている以上に悩んでいる人の多い症状だと言って良いと思います。

    普段からお腹が張りやすかったり、ゲップや、おならが出やすいけれど、健康診断などでは特に異常が見られないという場合、呑気症の可能性が高くなると思います。

    なお、呑気症には大きく分けて3つの種類があると言われています。

    2-1.器質性呑気症

    胃や腸などの消化器の異常や姿勢、歯の状態などが原因となって起こるものですが、比率的には、かなり少ないと言われています。
    そして、レントゲンや胃カメラなどの検査をし、異常が見られる場合は、この異常のある部分の治療をすることで対応していくことになります。
    しかし、特に異常が見られず、日常生活を送る上で支障が出ていないということであれば、治療の必要はなく、特に心配しなくても良い状態ということになります。

    2-2.心因性呑気症

    このタイプが一番多いと言われています。
    ストレスから心因的な嚥下が多くなり、この結果、空気を飲み込みやすくなることにより起こってくるものです。
    ストレスによりイライラしている時は食べ物を飲み込む時に空気も一緒に飲み込みやすくなると言われています。
    また、ストレスが強くなっている時は、寝ている時に歯ぎしりをしたり、歯を喰いしばったりすることで、噛みしめ呑気症候群の症状が起こることも多いものなのです。
    なお、同じ心因性でも神経症の「とらわれ」が原因の場合は空気の飲み込みや噛みしめといったことは起こらないと思います。
    つまり、神経症の「とらわれ」が原因の場合は腹鳴やおならといった呑気症の症状自体に対する「とらわれ」が原因になっているものなのです。
    お腹が鳴るという症状の場合であれば、これによって周りの人から変に思われると感じ、ますます、お腹の方に注意が向いてしまうことで、余計に腹鳴の症状を起こしやすくなっているものなのです。
    つまり、周りの人から変に思われたらどうしようという不安が、この場合は大きいものなのです。
    また、胃の不快感や胃痛の場合であれば、ガンなどの病気になったらどうしようという健康不安や「死の恐怖」を感じているものなのです。

    2-3.習慣性呑気症

    これは食べ方の癖、話し方や呼吸の癖、歯を噛みしめる習慣などから多量の空気をのみ込みやすくなり、この結果、呑気症の症状が起こる場合です。
    具体的には早食いや遅食いに伴い、良く噛まないで食べる癖のために食べ物と一緒に空気を吸い込みやすくなるといった理由が挙げられています。
    また、話す時などに歯を噛みしめる癖や息をする時に口呼吸になる癖のために空気を多量の吸い込みやすくなるとも言われています。
    また、口を無意識に動かす癖や、煙草を吸ったりガムを噛む癖などのために多量の空気を吸ってしまうという理由も挙げられています
    ただ、このような習慣性の呑気症の場合は食事の仕方を変えたり、日常生活の中での行動の仕方を変えるようにしていくことで症状が改善することが多いと思います。

  • 3.具体的な症状

    呑気症には具体的にどういう症状があるかをまとめてみると下記のようになります。
    ただ、これらの症状は呑気症以外の場合にも見られることがありますので、この点には注意が必要だと思います。

    1)胸焼けが起こることが多い。
    2)急にゲップが出そうになる。
    3)臭いのない、おならが出ることが多い。
    4)胃の不快感を感じることが多い。
    5)お腹が鳴る。
    6)胃痛を感じることが多い。
    7)お腹が張ってガスが出そうになる。(鼓腸)
    8)食欲不振が続いている。
    9)胸の重苦しい痛みを感じることがある。
    10)慢性的に肩こりがある。
    11)慢性的に頭痛を感じることが多い。
    12)あごや目の痛みを感じることが多い。

    *10から12は「噛みしめ呑気症候群」と言われている症状になります。

  • 4.呑気症と誤解されやすい神経症の主な症状

    下記の症状が呑気症と誤解されていることが多いように思います。
    ですから病院などで呑気症や空気嚥下症と診断された場合でも、念のためにチェックしてみた方が良いと思います。

    1)腹鳴恐怖症
    これは、空腹状態でないにも関わらず、お腹がグーグーと鳴ってしまうものです。
    そして、このお腹の鳴る音のために、周りにいる人から変に思われるのではないかと感じ、悩む症状になります。
    初めは純粋な呑気症のために、お腹が鳴る症状が起こったけれど、ある時からは、これによって周りにいる人から変に思われると感じ、お腹の鳴る音だけに注意が向くようになり、この結果、「とらわれ」が出来てしまうということも多いものです。
    ですから、腹鳴恐怖症の場合は、一人でいる時には症状があまり気にならないことが多いものなのです。
    つまり、学生であれば教室にいる時とか、会社員であれば事務所にいる時というように、周りに人が沢山いるような状況の時に症状が起こりやすいものなのです。
    これに対して、純粋な呑気症の場合には周りに人がいるかどうかに関わらず、お腹がなる症状が起こることが多いものだと思います。
    ですから、これが純粋な呑気症から来る腹鳴か、神経症の症状である腹鳴恐怖症かを見極めるポイントになると思います。
    なお、腹鳴恐怖症の場合でも症状が強くなっている時は周りに人がいなくてもお腹の鳴る音が気になってしまうものなのです。
    ですから、絶対に一人でいる時は気にならないということではありませんので、これを踏まえて判断すると良いと思います。

    2)おなら恐怖症
    これも1の腹鳴恐怖症と同様に、大勢の人の中にいる時に無意識のうちに、おならが出てしまい、このために周りの人から嫌がられたり、変に思われてしまうと悩む症状になります。
    ただ、呑気症から起こる、おならの場合には臭いがない場合がほとんどだと言われています。
    これに対して、おなら恐怖症の場合は、音よりも、むしろ臭いによって、周りの人から変に思われたり、嫌がれると感じることが多いものなのです。
    こういう意味で、おなら恐怖症の場合には腹鳴恐怖症の場合とは異なり、呑気症の場合と症状が全く重なるというものではないと言えます。
    なお、今までの私の経験からは、おなら恐怖症の場合には赤面症などの一般的な対人恐怖の症状の場合よりも強迫性が強いように思います。
    また、男性よりも女性の方が悩むことが多いように感じます。
    そして、年齢的には10代、20代といった若い人の方が悩むことが多いように思います。
    ですから、若い女性で、絶対に自分のおならの臭いのために周りの人が嫌な思いをしていると感じるパターンの場合が多いように思います。
    なお、自分の臭いに関する悩みというのは、おならに限らず、ワキガと言われている脇汗の臭いとか、口の臭いなど、若い女性に見られることの多い症状だと思います。

    3)過敏性腸症候群
    これは何かのイベントの前などストレスが大きくなるような状況の時に下痢になったり便秘になったりと、胃腸の不具合が起こる症状になります。
    胃痛なども、この中に含まれますので、呑気症の場合と重なる部分があると思います。
    過敏性腸症候群の症状は大きく分けると、下痢型、便秘型、ガス型ということになります。
    若い会社員が通勤電車に乗っている時に突然、お腹が痛くなり下痢になるといったタイプが下痢型ということになります。
    また、若い女性などで慢性的な便秘に悩んでいる人も多いですが、これが便秘型ということになります。
    ガス型は、おならが出やすくなるものですが、この中には呑気症に含まれるものと、おなら恐怖症に含まれるものがあるように思います。
    つまり、過敏性腸症候群のガス型と言われているものの中で臭いの悩みではなく、臭いのない、おならが出る症状の場合は呑気症の症状と重なると言って良いと思います。

    4)自律神経失調症
    これは神経症の「とらわれ」によって体調の悪さが起こる症状全般を含みますので、3で書かせて頂いた呑気症の具体的な症状が全て含まれると言っても良いと思います。
    例えば、ゲップや胃の不快感といった症状も、これが起こる「キッカケ」になったのは呑気症のためであったとしても、症状自体に対する「とらわれ」が出来てしまうと自律神経失調症ということになります。
    なお、自律神経失調症というと自律神経の乱れから起こる症状という場合もありますが、ここでは体調の悪さに対する「とらわれ」が出来た神経症に含まれる症状という意味になります。
    ですから、病院で色々な検査をしても特に異常が見られない場合の話になります。
    なお、呑気症の場合は無意識による過剰な空気の吸い込みや噛みしめが原因だと考えられていますが、これは1つの仮説であり、これだけでは説明のつかない場合もあると思います。
    そして、この場合は体調の悪さに対する「とらわれ」が原因になっていることが多いのではないかと思います。
    こういう意味で、呑気症の症状だと言われているものであっても、実際は自律神経失調症ということも多いと思います。

  • 5.原因

    先ほども書かせていただいたように、器質的なものや、早食いや炭酸飲料のとりすぎといった生活習慣が原因の場合もありますが、多くは精神面・心理面の問題が関係していると言って良いと思います。
    つまり、過剰なストレスを抱えて、無意識のうちに空気を飲み込む習慣がついてしまうということも多いものなのです。

    また、神経症の「とらわれ」が原因の場合は、例えば、お腹が鳴るという症状の場合であれば、これによって周りの人から変に思われると感じ、ますます、お腹の方に注意が向いてしまうことで、余計に腹鳴の症状を起こしやすくなっているものなのです。 つまり、周りの人から変に思われたらどうしようという不安だけに目を向け、これを無くそうとすることで、ますます腹鳴りの「とらわれ」を強くしてしまうものなのです。

  • 6.治療方法

    6-1.器質性の場合

    器質性の場合はレントゲンや胃カメラなどの内科的な検査や歯の状態などの検査をし、異常が見られる場合は、これに対応した治療をしていくということになります。

    6-2.心因性の場合

    ストレスが原因になっている場合は、環境の調整や抗不安薬などによる治療が必要になってくると思います。

    しかし、神経症の「とらわれ」が原因になっている場合は森田療法の学習をしていく中で胃の不快感や、痛み、腹鳴、おなら等の症状を「あるがまま」に受け止めることが出来るようになると、この結果として症状が改善してくるものなのです。

    6-3.習慣性の場合

    食べ方や話し方、呼吸の仕方といった習慣が原因になっている場合は、この習慣を変えるようにしていくことが大切になってくると思います。
    普段の生活習慣や食習慣を改善していくことで症状も改善してくると思います。
    具体的には食事をゆっくり食べるようにしたり、煙草を吸ったり、ガムを噛む回数を減らすといったことがあると思います。