(症状のチェックと原因、治療方法の解説)
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1.はじめに
不眠症を初めとした睡眠障害の症状に悩む人も多いことと思います。
このページでは睡眠障害を神経症が原因になっているものと、そうでないものの2つに分けて解説させて頂きます。
このため、一般的な解説サイトとは内容が異なる部分が多いと思いますが、この点は、ご了承いただければと思っております。
ただ、自分が睡眠障害ではないかと悩むような人の場合は、神経症が原因になっていることが多いと思います。
こういう意味で、今、不眠症などに悩まれている方の参考にして頂けるのではないかと思っております。
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2.睡眠障害とは
睡眠に何らかの障害がある状態を睡眠障害と言っていますが、この中でも不眠症に悩む人が非常に多いと言われています。
ある調査によると、日本の一般成人の5人に1人、つまり1500万~2000万人の人が不眠症に悩んでいるという結果が得られているとのことです。
また、睡眠障害によって仕事や勉強などをしている時に眠気やだるさ、集中力低下などが引き起こされると、効率が悪くなったり、極端な場合には事故につながることもあり得ますので、大きな問題だと言って良いのではないかと思います。
睡眠障害というと不眠症が頭に浮ぶ人が多いと思います。
しかし、入眠障害や中途覚醒といった形の症状だけではなく、日中に眠くなってしまったり、実際に寝てしまうこともある過眠症や、概日リズム睡眠障害、睡眠時随伴症など、色々な形の症状があります。
学術的に症状を分類、定義しているものとしては、『睡眠障害国際分類』(ICSD)(4つに分類)、『疾病及び関連保健問題の国際統計分類』(ICD)、『精神障害の診断と統計マニュアル』(DSM)(不眠症を3つに分類)の3種類があります。
これらの分類や定義は細かく、厳密に行なわれていますが、このページでは、神経症が原因になっているものと、そうでないものの2つに分けて説明させて頂きます。
2-1.神経症から起こる睡眠障害
これは、睡眠恐怖症や不眠障害などとも呼ばれますが、普通神経症から来ていることが多い症状になります。普通神経症から来ている睡眠障害の代表的なものは不眠症と言われますが、これは、夜、良く眠れない、今夜もまた眠れなかったらどうしようという、不眠に対する不安で悩んでいる状態になります。
ただ、睡眠障害の場合は不眠症だけではなく過眠症と言われている症状も含まれます。
過眠症は、いくら寝ても眠気が取れないということで、一日中、眠気にとらわれた状態(過眠障害)になります。
また、鬱病ではなく神経症が原因の不眠症の場合でも中途覚醒や早朝覚醒といった症状が見られることがあります。
2-2.その他の睡眠障害
神経症以外の原因から起こる症状としては下記のようなものがあります。1)病気に伴う不眠症
これは鬱病などの気分障害や喘息、糖尿病、心臓病などの病気に伴い不眠の症状が起こるものです。2)物質誘発性不眠症
これはカフェインなどの覚醒作用のある飲み物や処方薬などの影響で眠れなくなる状態になるものです。
鬱病の場合に処方される抗うつ薬などで、この状態になることも多いと思います。3)病気に伴う過眠症
睡眠時無呼吸症候群やナルコレプシー、鬱病などの病気が影響して昼間の眠気が強く、目覚めていられない状態になることも多いものです。4)物質誘発性過眠症
カフェインなどの覚醒物質の離脱や薬物中毒、アルコールや鎮静催眠剤などの影響によって昼間の眠気が強くなることがあります。5)ナルコレプシー
これは脳が睡眠と覚醒を制御できなくなる慢性神経障害のことを言います。
具体的には昼間に猛烈な眠気が起こったり、笑ったりすると全身の力が抜けてしまったり、寝入りばなに金縛りのような状態になったりする慢性的な症状が起こります。6)特発性過眠症
原因がはっきりしない過眠症であり、ナルコレプシーよりは日中の眠気は弱いと言われています。7)反復性過眠症
これは、3~10日間にわたって18~20時間という長時間睡眠が続いたあと、普通の睡眠時間に戻るものを言います。8)心的外傷後過眠症
これは、ショックな経験をした後の不眠に伴い起こる症状であり、悪夢を伴うことが多いと言われています。9)月経関連過眠症
これは、PMS(月経前症候群)期に起こる猛烈な眠気が現れる症状のことを言います。10)睡眠呼吸障害
これは、いびきや睡眠時無呼吸症候群のことであり、睡眠薬が症状を悪化させる場合もあると言われています。11)睡眠関連運動障害
これは、周期性四肢運動障害(手脚が周期的にピクピクしたりすることにより、睡眠が妨げられる)や、むずむず脚症候群(夕方から夜にかけて、ふくらはぎや足の裏、足の甲にむずむずとした不快感や痛みを感じる)のことになります。12)概日リズム睡眠障害
これは、昼夜のサイクルと体内時計のリズムが合わないため、不眠や過眠が起こり、仕事などの行動に支障が出る症状です。
睡眠相前進症候群(夜早く寝て朝早く起きる)や睡眠相後退症候群(夜遅く寝て朝遅く起きる)という形があります。13)睡眠時随伴症
これは、異常な動きや、感情、夢などを伴う睡眠障害であり、レム睡眠行動障害や睡眠時遊行症といった症状があります。14)レム睡眠行動障害
これは高齢者に多く、夢を見ている時に大声をあげる、殴る、走るといった異常行動が起こる症状です。15)睡眠時遊行症
これは夢遊病とも言われますが、睡眠の途中で起き上がって、取った動作を何も記憶していない症状になります。 -
3.症状のチェックと診断
神経症が原因の睡眠障害の場合と、神経症以外の原因の場合に分けてまとめてみました。
今の、あなたの状態がどちらに当てはまるかで、おおよその自己診断が出来ると思います。
3-1)神経症が原因の睡眠障害のチェック項目
1)寝つくまでに時間がかかり、なかなか眠れない。
2)夜中にトイレなどで目が覚めた後、眠れなくなり困る。
3)朝、早く目が覚め、まだ寝ようと思うが、寝つけない。
4)よく眠れなかった翌日、昼間、憂鬱になったりイライラしたりする。
5)熟睡出来なかったと感じ、日中に眠気を覚える。
6)眠れなかったため、頭痛や肩こり、食欲不振など体の不調を感じる。
7)今夜もまた眠れないのではないかと不安になる。
8)よく眠れないため、疲れやすく、やる気が出ないように感じる。
9)目覚まし時計の音が気になり、なかなか眠れない。
10)トイレに行っても、また行きたくなり、眠れない。
11)部屋の明かりが気になり、思うように眠れない。
12)電車の音が気になり、眠れないことが多い。
13)足のむずむずが気になり眠れないことがある。
3-2)神経症以外の原因の睡眠障害のチェック項目
1)いったん寝ても、起床するまでの間に何度も目が覚めることがある。
2)特に心配はしていないが、以前よりも早く目が覚めるようになった。
3)最近、睡眠時間は取れているが、眠りが浅く十分眠った感じがしない。
4)眠気のために、注意力が低下し、仕事などに支障が出ている。
5)2交代勤務を続けてきたが、最近、夜勤後によく眠れない。
6)明け方まで眠くならず、いちど眠ると昼ごろまで起きられない。
7)生活パターンが乱れ、眠る時間が不規則になっている。
8)夕方から眠くなり眠ってしまうため、早朝に目が覚めてしまう。
9)寝つく時間、起きる時間が毎日1時間位ずつ遅くなっている。
10)日中に強い眠気に襲われ居眠りをしてしまう。
11)寝た直後に「金縛り」状態になることがある。
12)笑ったり怒ったりすると、突然、体の力が抜けてしまうことがある。
13)眠気のため、仕事や勉強、家事などに支障をきたすことがある。
14)会話や食事中など、強い眠気のため居眠りをしてしまうことがある。
15)夜布団に入ると足がムズムズし、じっとしていられず寝つけない。
16)寝た直後に足や手がぴくつき何度も目が覚め、熟睡出来ない。
17)夢を見たりして大声で寝言を言うことがある。
18)夢でうなされ、手足など体を激しく動かしてしまうことがある。
19)睡眠中に息が止まっていると言われることがある。
20)いびきがひどいと、長い間、言われている。
21)最近、体重や体脂肪率が増えてきた。
22)寝起き時に、口の中が乾いていることが多い。
23)身体的または精神的疾患を患っている。
24)夜、寝床に着くと、足がほてって苦しい。
25)寝ている時に、歩き回るなどの行動を取ってしまうことがある。
26)睡眠中に、興奮したり泣き叫ぶなど、混乱した言動がある。
27)遅寝が直せず、朝起きるのが非常につらい。
28)昼夜逆転状態になっている。
なお、神経症以外の原因の睡眠障害のチェック項目にあてはまる場合でも、この症状のために、また今夜も眠れなかったらどうしようと、予期不安を感じる場合は神経症の傾向が強くなると思います。
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4.睡眠障害と共通する神経症の主な症状
1)不眠症
神経症が原因の睡眠障害の場合は、ほとんどが不眠症という形になって現れると思います。
そして、この場合、先ほども書かせて頂きましたが、今夜もまた眠れなかったらどうしようという予期不安を感じるところに特徴があると言って良いと思います。
つまり、こういう予期不安を感じ、心配性などの神経質性格の特徴を持っている場合は、神経症の「とらわれ」から起こっている不眠症だと考えて良いと思います。 -
5.睡眠障害に影響すると思われる神経症の症状
主に不眠症ということになりますが、下記のような症状があると、より眠れないということになりやすいと思います。
1)雑音恐怖
この症状は隣の家の音が気になってしまうとか、電車や車の音が気になってしまい、勉強や仕事に集中できないという形で起こる症状になります。
不眠症の場合は、時計の秒針の進む音が気になり眠れないと訴える人も多いものです。2)頻尿恐怖
この症状はトイレに行ったのに、また、すぐに行きたいように感じてしまうという症状になります。
このため、授業を受ける教室とか、トイレの付いていない電車やバスなどに乗る時に不安になってしまうことが多いものです。
睡眠障害の場合は、夜、なかなか眠れない時に、一度、トイレに行ったのに、また、尿意を感じ、何度もトイレに行くというパターンになることが多いように思います。
つまり、この場合は、尿意が気になることで、思うように眠れなくなってしまうものなのです。3)不完全恐怖
この症状は元々は、外出する時にガスの元栓とか、玄関の鍵を閉め忘れたのではないかと感じ、何度も家に戻ってしまうという形で現れることが多いものです。
つまり、100%完全を求めているために、自分の取った行動に自信が持てなくなっている状態だと言って良いと思います。
睡眠障害の場合は、寝室の騒音や照明、温度や湿度、寝具などの環境的なことに対して完全欲の「とらわれ」が起こることが多いものです。
つまり、マンションなどで、隣や上の階の住人の立てる物音が気になり眠れなくなるとか、寝室の照明が明るすぎて眠れないといった形で現れることが多いものです。4)抑うつ神経症
この症状は、最近は、鬱病と混同されている事が多いように思います。
つまり、現れる症状が鬱病と非常に似ているために、専門の先生でも見分けが付きにくいものなのです。
そして、このために、不眠で悩み、元気がない状態の時に心療内科や精神科などの病院に行くと、鬱病と診断されてしまうことが多いものなのです。
しかし、器質的な鬱病の場合と抑うつ神経症の場合では、その治療方法が正反対になってくるものなのです。
つまり、器質的な鬱病の場合は、抗うつ薬などの薬を飲み、無理をしないようにしていくことが大切なのですが、抑うつ神経症の場合は、薬に頼らず、森田療法の考えに沿って、自分では少し無理かなと思える位に頑張るようにしていくことが大切になってくるのです。
しかし、今は抑うつ神経症の場合でも器質的な鬱病の場合と同じように抗うつ薬などの薬物療法で治療されていることが多いと思います。
そして、このために何年にも渡って薬を飲み続けている人が増えているように思います。 -
6.原因
神経症以外の睡眠障害の場合は、2-2のところでも書かせて頂きましたが、心身の病気、脳や神経の障害、薬やアルコール、覚醒剤といった原因物質、心的外傷、生活習慣(生活リズムの乱れ)といったものが原因になります。
これに対して、神経症が原因の睡眠障害の場合は眠れなかったらどうしようとか、眠気が気になってしまうということに常に注意が集中しているものなのですが、これは、きちんと眠れてスッキリした状態で過ごしたいという欲求が強いために起こってくるものなのです。
つまり、神経症が原因の睡眠障害の場合は、うつ病とか他の病気の場合とは違って脳内の異常物質とか身体の異常から来ることではなく、睡眠に対する心の置き所、つまり「とらわれ」から起こっている症状だと言えるのです。
つまり、眠れなかったらどうしようという不安に対する「とらわれ」が出来た状態だと言っても良いと思います。なお、むずむず脚症候群と言われている症状には神経症の「とらわれ」も、かなり影響しているのではないかと思います。
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7.原因が神経症ではない場合の治療法
1.病気の治療
明らかな心身の病気がある場合は、これを治すことが先決になると思います。
また、睡眠薬や抗てんかん薬、抗うつ薬、抗パーキンソン病薬、睡眠補助剤といったものを併用する必要も出てくると思います。2.生活習慣の見直し
脳や神経の障害、心的外傷、生活リズムの乱れが原因の場合は、寝る前に長時間テレビゲームなどしないとか、寝室環境を整えるとかにより、規則正しい生活を送るようにしていくことが大切になってくると思います。
また、これと同時に睡眠剤などを用いる必要も出てくると思います。
また、適切な時間に明るい光をあてる「光療法」といったものも、概日リズム睡眠障害の場合に取り入れられることが多いようです。3.嗜好品のコントロール
薬やアルコール、覚醒剤といった原因物質が原因の場合は、コーヒーなどカフェイン入りの飲み物やアルコール、タバコ(ニコチンには覚醒作用があります)などを取り過ぎないようにしていくことが必要になると思います。 -
8.神経症が原因の場合の克服方法
6の原因のところでも書かせていただきましたが、神経症から来る睡眠障害は脳内の異常物質とか身体の異常から来るものではなく、精神的な要因である「とらわれ」、つまり心の置き所から起こってくる症状だと言えるのです。
ですから、この場合は、睡眠障害の症状にだけ目を向け、薬を飲んだり自己催眠をかけたりといった方法では、一時的には良くなったように思えても、また少し経つと、不眠や過眠といった睡眠障害の症状がぶり返し、なかなか良くならないことが多いものなのです。
しかし、森田療法の学習をしていく中で不眠や過眠といった睡眠障害の症状に対する受け止め方が変化し、精神的な原因である、眠れなかったらどうしようという不安に対する「とらわれ」が薄れてくると、この結果として症状が治ってくるものなのです。